\\\「偶然と音楽」10.23開催記念 ///
アカガエルが速いんですよ - gwa 制作裏話 -
辻村豪文(キセル)インタビュー
Text : 中村明珍
延期しましたトークライブ「偶然と音楽」は、満を持して10月23日(日)夜に開催する運びとなりました。
初めて生の場で顔を合わせ、繰り広げられる辻村豪文さんと森田真生さんの対話。そのきっかけの一つとなった出来事が、キセルの楽曲「gwa」の誕生です。
そこには思いがけない経緯が―――。ライブに先駆けて、スペシャルインタビューを公開です!
さかのぼることちょうど1年前、2021年10月24日。
森田真生さんの新刊「僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回」(集英社)の刊行、また並行して森田さんと行ってきた学びの場「生命ラジオ」の1周年を記念して、 周防大島の農家の宮田正樹さんを交えてトークライブを開催しました。
まさにその日の朝。松本より最高の贈り物が届けられてびっくり。
キセルのギターボーカルである辻村豪文さんによる、新曲「gwa」(グワ)。
不思議なリズムから始まり辻村さんの歌……だけかと思いきや、親子、近所の子、いろいろな賑わいの歌声。これまで味わったことのない音楽体験で僕の一言目は「た、楽しい」。
辻村豪文さんから送られてきたメールの中に「いろいろ経緯あって」という一言があり、気になって仕方がなかったので急遽インタビューを敢行してみました。 聞いてみたら思わぬストーリー、音楽の楽しさ伝わるお話。森田さんの編集の助けを借りて構成し、「偶然と音楽」ライブに先駆けてそのインタビューを公開します。ぜひ楽曲とともに、お楽しみください!
(インタビュー:2021.10.31夜 zoomにて)
1回しかやらないんだな
中村明珍(以下・中): この曲の制作は、どんな感じだったんですか?
辻村豪文(以下・辻): 子供の声をちゃんと録音するのは初めてだったんですが、「思ったようには全くなんないんだな」っていうのは勉強になりました。 「この日に録ろうね」ってお願いをしてて…スケジュールというか約束していたけど、やろうとしたら 「え、遊びに行くんだけど?」みたいな(笑) 。 あと、やり直しというか、1回しかやってくれないんだなっていうのも。
中:子どもが?
辻:そう。飽きちゃう。それもけっこう「あーこんなに露骨に飽きるんだ」っていうくらい(笑)。
中:あははは。
辻:大人はけっこう我慢してやってるんかなって。レコーディングとか、やっぱり良く録りたいから。子どもはほんと、1回しかやらないんだなっていう(笑)。テンションが、どれぐらいだろう……1/5くらいになっちゃう。
中:無理やりやると?
辻:そう。しかも1回目で「ああ、いい感じだな」と思ったら、自分がマイク差し忘れたりとか、入力先を間違えてたりとかして。
中:録音しそびれて(笑)。
辻:そうそう。近所の子ども達にも参加してもらったんですけど1回目で「すごくいいな」って思ってたら、それがマイク差し忘れてて(笑)、これで「もう1回」って言ったら「絶対やってくれへん」と思って、もうバーンって止めて。 「はい~もう練習おわり。じゃあ本番いこっか」っていったんですけど、もうテンションだだ下がりで(笑)。 2回目はもうふざけちゃって。マイクとかもすごい吹いたりとかいろいろ。でもそのいたずらのあととかが、ちょうどよくて使っています。偶然というか。
中:いいですねえ。実際歌ってくれた子どもって、辻村家と、友だちとか?
辻:うちの家族と、家の裏に子どものいる家が3家族ぐらいいて、よく遊ぶんです。普段から自分もしゃべったりとかして、よく知っている子どもたちがいて。
中:じゃあ、その子たちも事前に「録るよ」って言ってたんですか?
辻:あ、いや、それが全然言ってなくて。これは一番最後のいい流れだったんですけど―――。
まず、自分の子ども、長女と次女は2回歌ってくれて、それで遊びに行っちゃって。 でも「これだけだとちょっとさびしいな」と思ってたら、娘2人が帰ってきたときに、ちょうど裏の1家族の兄妹2人が一緒に帰ってきて。「あ、ちょっと参加してもらえたらいいな」と思って、なんとなくしれっと外に出て話しかけたりしてたら、その兄妹は「今からラーメン食いに行かないといけない」 って行ってしまって。
中:あら(笑)。
辻:で、もう一人、別の家族のすごいちっちゃい、一番最年少の男の子が……今たぶん2歳になってないぐらいの子が1人だけいたから、お母さんに録音のことちょっと説明してたら、来ないかなぁと思っていた3姉弟が坂の上から降りて来てくれて、お願いしたらすごいノリノリで「やるやる」って言ってくれて。 だから何人だろ……姉弟と、2歳弱の子と、うちの娘2人と、あと友晴くん(キセル)もちょうど来てたから、甥っ子と。集まったら、なんか楽しいというか……すごくいい感じで。
中:おお!
辻:それも、ほんとたまたまっていうか……両親もちょうどその時期にうちに来る予定になっていたから、「それまでに作んなきゃ」と思ってたんだけど、かえるの歌って決めてやりだしたら「最後、声いっぱいあった方がいいな」って思って……「ハッ!」と。 親も来るし、弟(友晴くん)も子ども連れて来るし、「家族の声全部録れるやん……」と。
中:いいですねえ~。
辻:両親の声を録れたのは、貴重でした。初めて録音しました。
中:どんな気持ちでした?
辻:いや~死んだら何度も聴き直すやろうなぁとか(笑) 色々よぎったんですけど、父親の声が、自分と全然似てないと思ってたけど、成分的にちょっと似てるなぁと思ったりして。
中:やっぱり似るんですかね。家族や参加した人の反応はどうでした?
辻:母親はけっこうノリノリでやってくれたんですけど、録音してても「おトイレ行きたいわぁ」とかぼそっと言ってて子供みたいでした笑。でもみんなほんとそれぞれバタバタしてるときの合間を縫って 「ほんますんません」みたいな感じでやってもらってたから。
中:あははは。
辻:でも最後、近所の子どもたちが入ったところで完成形みたいにやっぱりなったから、僕の奥さんな んかは「近所の子らの声が入ってよかったね」って言ってくれて。「こうしたかったんだ」っていうのが伝わったのかな。とにかくみんな忙しい合間縫ってやってくれたなって。
偶然のカエル
中:もともとこういうものを作ろうと考えていたんですか?
辻:話を頂いた時から「何作ろう、どういうの作ろう」って色々考えてたんですけどなかなか流れ出さないところがあって―――。 僕の奥さんのお父さんが、季節毎に採れた野菜と一緒に荷物をうちに送ってくれるんですけど、考えていたちょうどそのときにきたダンボールの中に「希少生物のきもち」っていう本が入っていて。お父さんは「娘たちに」っていうことだったと思うんですけど、「これ何だろう」って思って。お父さんも実は虫好きで、近所の昔からある公園を守る会とかしているんですけど。
中:へえ~。
辻:読んですごく面白くて。その本は希少生物、絶滅危惧種同士の対談形式で、全部生き物目線で司会がコウノトリっていう構成になっていて。 で、ちょうどそのときに奥さんから、彼女が子供たちを連れてよく参加している水生昆虫を主にした観察会がまた近々あるよって声をかけてくれて。 今までもあったんですが、僕は行ったことなかったんです。「暑いしヤダ」とかいって(笑)。でも今回はタイミング的に行った方がよさそうだなと思って。本の中に水生昆虫もたくさん出てくるし、涼しくもなったから「行きます!」って(笑)。
中:それはいつ頃行ったんですか?
辻:10月初旬に行って。で、面白かったので、10月23日にもう1回あるからっていうことで計2回行ったんです。2回目の観察会も行きたいから、それまでに歌録り終わらせなきゃって思っていました。なので歌録り終わってから、その日に2回目へ。めちゃくちゃ寒かったけど(笑)。
中:(笑)じゃあ歌録り終わって、2回目の観察会行って、その夜に録音のミックスをしたってことですか?
辻:そうです(笑) 。いい流れでした。 2回目に行ったときの観察会は…牛伏川っていうところで、昔はホタルとかイワナとかがいたけどいなくなった、ということみたいなんですけど。
中:へえ。
辻:そこで護岸の改修工事があったんです。改修工事って、修理っていうイメージしかなかったけど、 「元に戻す」―――以前やったやつを剥がして、なるべく元あった環境に戻す工事があるんやって初めて知って。それめっちゃいいなって。ちょうど生命ラジオの森田さんの建物の話で「作るけど壊すことを考えてない」「作りっぱなしになっちゃってる」という話から「これからは、そうじゃないのができるんじゃないか。あればいいんじゃないか」って言っていたのを思い出して。 年末の道路工事等の役所の予算獲得や、雇用の為の公共工事でも、無駄に直したり新しく作るというのは聞くけど、元に戻す工事があるんだ、っていうのは……それ、もっといっぱいあったらいいのにと思いました。そんなバイトあったら行きたいし、やりたい人凄くたくさんいそうな気がして。
その牛伏川は、500メートルくらいを1年かけて、完全に元通りとかではないけれど流れ方を考えつつ、 自然に近い形で石とかを配置し直したそうです。
中:おお。
辻:「元に戻そう」っていう声が地域で通ったみたいで。 「7、8千万で安く済んだよ」みたいな言い方を話してたおばちゃんがしてたけど(笑)、とにかく1年で戻して。 そしたら生き物が、イワナもまた来るようになってきたりして。「イワナのいくらはいくらの中で一番うまい」とかそんな話をしてました。
中:すごい。
辻:1回目の観察会に行ったときに、そんなにたくさん獲れたわけではなかったけれど、自分は素人だからとりあえず石ひっくり返したりとかしながら、でもなんかすごく楽しくて。時間忘れてやっちゃうなあ、とか思いながらやってて。
中:うんうん。
辻:で、最後に「何が何匹とれた」みたいな時間があるんですけど、その時に「そっち行ったぞ!!」みたいにおじさんがわやってしてて(笑)。そしたらみんなが座ってるブルーシートの合間をでっかいカエルがぴょんぴょん……。
中:カエルが……。
辻:みんな捕まえようとするんだけど素早くて獲れなくて。「アカガエル」っていう、トノサマガエルの大きめのやつくらいなカエルで、捕まえるタイミング的に普通よりかなりテンポが速めなんです(笑)。それでみんなの間をすり抜けていって。で、獲ったんですよ。
中: え、誰が?
辻:僕が(笑)。 そういうの割と得意な方でって、カエルに関してはそう勝手に思ってるだけなんですけど、相手とシンクロしていって獲る、みたいな(笑)。
アカガエルは絶滅危惧種ではないみたいなんですけど、ちょうどさっきの本読んだばっかりだったから、会ったことない生き物に会えた感じが、なんかその、ほわっと明るい気持ちになったんですよね。 ちょっと不思議な。
中:へえ~。
辻:で、子どものときとか生き物を探したり捕まえるのとか楽しいじゃないですか。それが「楽しい」っていう風に人間できてるんだな、みたいなのが不思議だなって。捕まえるときにやっぱりこう……猟でもなんでもそうだと思うんですけど、釣りだったら魚の気持ちになんないと釣りできないのと同じで、そうやってちょっと同期する、みたいな機能が人間にはあるのがおもしろいな、ってぼんやり考えてて。 で、その時に、「かえるのリズム」……かえるを追っかけるリズムで曲ができないかな、って。生命ラジオの曲で作れへんかな、って思ったのが最初だったんです。10月の頭に。
中:わあ。そうなんだ!
辻:長い前置きですみません(笑)。最初はドラム叩いたりリズムだけでやってたんですけど、なんか難しいなと思って。もうちょっと具体的なモチーフとかがあるといいな、「かえるの歌」とか……どうかな? って自分で歌ってみたけど「どうなんやろう…」みたいに思って。 そしたら、その日に次女が学校から帰ってきて、ピアニカで琉球音階の「かえるの歌」を弾きだして(笑)。
中:えっ!たまたま?
辻:そうなんです。今度学校の音楽会があるんですけど「かえるの歌」を伴盤ハーモニカでやる、しかもいろんな国の音階でやる、っていうことで。 それを聴きながら「琉球音階のかえるの歌、めっちゃいい」って思って。それで、それを基本にリズムのことも踏まえつつ、とりあえずやってみようっていうとこから始まった感じでした。どうなるかわからないけど、って。
中:そんなストーリーがあったんですね。
辻:曲、というかなんでもそうかもしれないですけど、作ろうと思って、自分の中で思ってた感じだけでできる場合も、なくはないんですけど例えば家族の言動だったりとか、そのとき読んでた本とか、見かけた風景とか、何がどうつながるか……全然、最終的には意図してないとこで、やっぱり流れに乗ったときにこう、うまいこと落ち着くみたいなことって、曲作ってるとちょいちょいあるんです。
今回の「かえるの歌をやってみよう」っていうとこから録り終わるまでの流れは、なんかそういうのが……他力本願といったらあれだけど、「流れがなんとなくあってそれを切らないようにやっていったらできた」みたいなところは、いつもより多めかもしれないです。(了)
辻村豪文と辻村友晴による兄弟ユニット。カセットMTR、リズムボックス、サンプラー、ミュージカル ソウ等を使用しつつ、浮遊感あふれる独自のファンタジックな音楽を展開中。スピードスター在籍時に4枚のフルアルバム、2006年カクバリズム移籍後も「magic hour」「凪」「SUKIMA MUSICS」「明るい幻」「The Blue Hour」など、アルバムと10インチレコードやライブ会場限定のEPなど精力的にリリース。どの作品も多くの音楽好きを唸らす名盤となっており、ロングセラーを続けている。毎年の大型野外フェスへの出演や、フランス・韓国・台湾でのライブ、ジェシ・ハリスとの全国ツアー、そして恒例のワンマンライブをリキッドルームや赤坂ブリッツ、日比谷野音などで行っている。2019年には結成20周年を記念したベスト盤『Kicell’s Best 2008-2019』をリリースし、日比谷野外大音楽堂での3度目のワンマンを成功させた素敵な2人組である。
キセル
森田真生(もりた・まさお)
1985年生まれ。独立研究者。京都東山の麓にあるラボ「鹿谷庵」を拠点に、執筆や講演、教育の活動にたずさわるかたわら、人間と人間でないものの関係を編み直す言葉と思考の可能性を追究している。著書に『数学する身体』(2016年に小林秀雄賞を受賞)、『計算する生命』(2022年に河合隼雄学芸賞を受賞)、絵本『アリになった数学者』、随筆集『数学の贈り物』、編著に岡潔著『数学する人生』がある。2021年9月24日に最新作『僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回』(集英社)を刊行。https://choreographlife.jp/
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